寝る前の一話

夜眠る前に読むと心がほっこりするような短編を書くつもりです。

1話 土砂降りの日にしか現れない図書館

5/25「土砂降りの日にしか現れない図書館」

 私の街のはずれには、土砂降りの日にしか姿を現さない図書館がある。
土砂降りというのは本当にその言葉の通りで、傘をさしていてもまるで海に飛び込んだように体がずぶ濡れになるような雨のことだ。この街にはずぶ濡れになりながらわざわざ街のはずれを目指す人はいないから、この図書館の存在をほとんどの人は知らない。私だってついこの間まで知らなかった。図書館の存在に気づいたのは奇妙なめぐり合わせというか、ほぼ事故のようなものだった。
 あの日、私は意中の異性であるマッスル飯田くんに彼女がいることを知り、嗚咽にも似た声で呪いのセリフを飯田くんに吐きながら校舎を飛び出していった。その後しばらく鬼の形相で街中をかけずり回ったのだが、土砂降りということもあり誰も私を気にかけるものはいなかった。「雨だけが優しい。雨だけが優しいね!」とドロドロになりながら狂気じみた感情を抱いていた私は、ふと見たことのない建物が目の前にあることに気づいた。こぢんまりとしているが、しっかり手入れの行き届いた洋館で、庭には様々な色のバラが雨に打たれて揺れていた。玄関のほうに何やら看板のようなものがある。目を凝らしてみると、そこには「にゃんこ文殿」と書かれていた。

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5/26「不思議なチャイム」
 「にゃんこ文殿? こんな建物あったっけ?」
 私は目の前にある建物に違和感を覚えたが、気がつけばずぶ濡れになっていた体をとにかく乾かしたい気持ちでいっぱいだった。だめ元でタオルを借りられないか聞いてみようか。もしくは傘でもいい。このままだと確実に風邪を引くことは目に見えていたので、私は意を決してチャイムを鳴らすことにした。
 にゃんにゃーん、にゃんにゃーん、にゃんにゃーん。
 なんだか聞いたことがないような音色のチャイムだった。チャイムというよりはもはや猫の鳴き声のようだ。面白いチャイムもあるものだ、と少し頬を緩めていると玄関先の電球がピカッと光った。お、住人が中にいたようだ。軽い足音がトトトトっと近づいてくる。子供だろうか。歩幅もかなり狭いように感じる。私は少しだけ緊張しながらもうすぐ開かれるはずのドアを見つめた。が、それからしばらくしてもドアは開かなかった。居留守を決め込んでいるのだろうか。先程まで聞こえていた足音も消えている。やれやれ、居留守を使うなら玄関の明かりはつけるべきではないし、慌ただしい足音も立てるべきじゃない。期待した私が馬鹿みたいじゃないか。そう思って帰ろうとしたとき、ガチャっとドアの開く音がした。