寝る前の一話

夜眠る前に読むと心がほっこりするような短編を書くつもりです。

6話 猫との約束

結局、チンの言葉の意味はわからずじまいだったが、とりあえず一冊だけ本を借りてきてしまった。はあ、とため息をつく。今日はいろいろ疲れた。衝撃の失恋に続き、さらには追い撃ちをかけるように不可解な図書館に迷い込んだ。だが、ため息の原因はそれだけではなかった。乾かした制服を着て傘を借りて帰ろうとしたとき、チンはこう言った。

 

「そうそう、本はきっちり2週間で返すことだ。でないと、お前はハチャメチャな事態に巻き込まれることになる」

「ハチャメチャ?」

「それはもうハチャメチャだよ。だからきっちり2週間以内にここへ返したほうがいい」

「でも、ここって今日みたいな土砂降りの日にしかやってないんじゃないの?だって、この16年間でこんな図書館を見たのは初めてだもの。普段はやってないんでしょ?」

「まぁな。でも一度この図書館に足を踏み入れた者はいつでもここへ来られるようになっている。そういう魔法だ」

 

私は昔から人との約束を守れない。親に留守番を頼まれても平気で外に出かけるし、夏休みの宿題だって一度たりとも提出したことがない。きっとこの本も返すのを忘れてしまうだろう。いや、借りたことすら忘れるかもしれない。「でも、返さなかったらハチャメチャなことが起こるって言ってたな。どんなことが起こるんだろう」私は人との約束が大嫌いだ。でも、今回ばかりは仕方ない。

 

はあ、と私はため息をついた。