寝る前の一話

夜眠る前に読むと心がほっこりするような短編を書くつもりです。

2020-01-01から1年間の記事一覧

【小さな愛】一話 アキとユリ

我々はこの村を愛している。 豊かではないが、自然に恵まれ村人たちも働き者だ。 私自身、80年前にこの地に生まれ落ちてから、村のために一生懸命働いてきた。大きな諍いもない平和な村だ。 しかし、村の平穏が崩れ去る瞬間はあっけなく訪れた。それは、ま…

10話 キャプテンのときめき

幸いにもマッスル飯田は生きていた。あの後すぐに救急車で運ばれていったそうだが、信じられないことにあれだけ吹き飛んだ彼はかすり傷で済んだそうだ。その証拠にマッスル飯田は今日も女子たちの黄色い歓声を背にサッカーの練習に打ち込んでいる。その様子…

9話 マッスル飯田

彼は意外と聞き上手だった。 キャプテンの発する無言の圧力に耐えかねた私は、しぶしぶ悩みを打ち明けた。とはいってもある程度自分の中で処理できているレベルのものだけど。とくに理由があるわけではないけど、なんとなくキャプテンが私の世界に干渉するの…

8話 1日1ヒーロー

キャプテンはひどく不服そうな面持ちでコーヒーカップを手に持っている。私は無言でそのカップにコーヒーを注ぐ。キャプテンもまた無言でそのコーヒーをすする。 窓から飛び出していったあと、しばらくしてキャプテンは私の部屋に戻ってきた。星座占いを見終…

7話 キャプテン・ジョニー

朝、目が覚めると私の横でキャプテン・ジョニーが寝ていた。キャプテンはヨダレを垂らしながらふがふが言っている。ゆっくりと体を起こし、枕にヨダレの跡がしっかりついているのを確認した私は、思いっきりキャプテンを蹴飛ばした。 「お?おおおおお!お?…

6話 猫との約束

結局、チンの言葉の意味はわからずじまいだったが、とりあえず一冊だけ本を借りてきてしまった。はあ、とため息をつく。今日はいろいろ疲れた。衝撃の失恋に続き、さらには追い撃ちをかけるように不可解な図書館に迷い込んだ。だが、ため息の原因はそれだけ…

5話 不思議な図書館の不思議な本

チンはどれでもいいから一冊借りていいよと言ってくれた。私はぐるりと本棚を見渡して息を呑んだ。どれも古めかしく、一冊一冊が何かの芸術品のようだ。普段本を読まないこともあり、手を伸ばすのをためらう。 「そんなに深く考えなくていいよ。ぱっと目に入…

4話 チンの飼い主

「こんな立派な図書館、一体誰が作ったの?」 私は頭に浮かんだ疑問をそのまま猫に尋ねた。 「チンの飼い主だよ」 猫は前足を舌で舐めながら答えた。 「え、でもここは大昔に作られたって言ってなかった?」 「うん、作られたのは大昔だ。おそらく300年は経…

3話 物理が崩壊している図書館

「物理が崩壊している図書館」 外観の割に中はとても広かった。玄関に入ると目の前は大きなホールになっていて、中央には2mほどの中世と思われる格好をした男の彫刻が鎮座している。その両脇からは階段が伸びていて二階へと続いている。床はバロック調のデ…

2話 自分のことをチンと呼ぶ猫

「自分のことをチンと呼ぶ猫」 ゆっくりとドアが音を立てて開いた。隙間から2つの青い瞳がこちらを覗いている。なんだかおかしい、と私は思った。なぜなら、目の位置が異様に低いからだ。私の膝くらいしかない。そしてなにより、その縦長に筋の入った瞳は猫…

1話 土砂降りの日にしか現れない図書館

5/25「土砂降りの日にしか現れない図書館」 私の街のはずれには、土砂降りの日にしか姿を現さない図書館がある。土砂降りというのは本当にその言葉の通りで、傘をさしていてもまるで海に飛び込んだように体がずぶ濡れになるような雨のことだ。この街にはずぶ…