寝る前の一話

夜眠る前に読むと心がほっこりするような短編を書くつもりです。

3話 物理が崩壊している図書館

「物理が崩壊している図書館」
 外観の割に中はとても広かった。玄関に入ると目の前は大きなホールになっていて、中央には2mほどの中世と思われる格好をした男の彫刻が鎮座している。その両脇からは階段が伸びていて二階へと続いている。床はバロック調のデザインをあしらった大理石が敷き詰められ、天井にはきらびやかなステンドグラスでできたシャンデリアが吊ってある。まるでどこかの神殿にでも迷い込んでしまったかのようだ。壁一面に並べられている大量の本たちを見て、ようやくここが図書館らしきものであるということが分かった。


 「なんて・・・素敵なの」


 私はその荘厳な光景に思わず見とれてしまっていた。まるで何かの物語にでも出てきそうな雰囲気だ。でも、と私は思った。こんな小さな町の、しかもはずれの方になぜこんな豪勢な建物があるのか。いや、建物自体はこんなに大きくなかったはずだ。外からみたときはこぢんまりとした印象で、中にこんな広大な空間が広がっているとは想像もできなかった。物理やら何やらが間違いなく欠落している。一言でいえば”ありえない”。室内の面積は外観に比べ10倍以上はあるように思える。それに、この建物にはもう一つ大きな違和感がある。なぜここまで立派な図書館を町の誰一人として知らないのだろうか。この小さな町ならすぐに噂は広まるだろう。観光客だって来るかもしれない。

 しかし、私は今日に至るまで町のはずれに図書館があるなんて聞いたこともなかった。ましてやこんな素敵な図書館があるということを。もしや最近新しくできたのだろうか、と思ったがどうもそうではないらしい。建物の外観や中の雰囲気を見ても少なくとも建築から50年は経っていそうだ。よく見てみると、大理石や柱はかなり年季が入っている。
 「一体なんなのここ」
 「ここは」
 私の腕の中でも幸せそうにもぞもぞしていた猫が話しだした。「ここはにゃんこ文殿。大昔に作られた図書館さ。」